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第175話

この視線が誰のものかは、もう明らかだった。

しかし、弥生は気にせず、グラスを持って、一口飲んだ。

やはり、先ほど飲んだものと同じ味がした。

近くにいた弘次は、彼女の桜色の唇がグラスの縁に触れている様子を見て、喉が渇いたような感覚を覚えた。

彼は眼鏡を押し上げ、自分の視線を逸らそうとしながら、軽く問いかけた。「気にしていないの?」

その言葉に、弥生は一瞬動きを止めた。

弘次は微笑み、さらに声を低くして続けた。

「皆があんなふうに言っているのに、本当に気にしていないのか?」

結局、前後の質問に大きな違いはない。気にしていないからこそ、そんなことを言われても動じないのだろう。

彼女は少し唇を上げて答えた。「だって、それが事実だから」

そもそも彼らは偽りの結婚をしている。今さら何を気にする必要があるのだろう?

彼女の返事を聞いた弘次は、眼鏡の奥で瞳を少し曇らせた。その反応に何とも言えない気持ちが湧き、言葉が出なかった。

しばらくして、彼はため息をつき、弥生の頭を軽く撫でながら言った。「大人になったんだね、成長したよ」

弥生は驚いて、思わず彼を見つめた。

この人は一体何をしたいのか?

何年経っても、彼はこうして彼女の頭を撫でるのが好きなようだ。昔なら子どもだったからまだしも、今はそうではない。

彼女が不思議に思っている間に、瑛介が立ち上がり、冷たい目で弘次を見つめて言った。「ちょっと外で」

弘次は微笑んで、「飲んでてね。瑛介は僕に何か話があるらしい」と言って席を立った。

「うん」

弥生は軽く頷いた。

二人が外に出ると、他の人々が視線を交わし合い、弥生に向かって興味津々に尋ね始めた。

「久しぶりだけど、弘次はずっと君に優しいんだね」

優しい?弥生は、彼がかつて自分の気に障ることをよく言っていたことを忘れていなかった。彼のせいで泣きそうになったこともあった。

そのため、軽く唇を引きつり、ただそれだけで応えた。

「君と瑛介は本当の結婚?それとも偽りの結婚なの?」

とうとう誰かが一番の質問をした。

彼らは本当に気になって仕方がなかったのだ。二人の結婚の知らせが広まったとき、みんなは驚き、幼馴染が結ばれたのかと考えた。

しかしすぐに、噂が広まり、二人はおばあさんのために偽装結婚をしたという話が出回った。おばあさんが弥生を気に入ってい
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